現在、世界には重症化率が高い危険な感染症が数多く存在し、それらの対策の1つとしてワクチン(予防接種)があります。このワクチンの摂取によって対応した免疫(抗体)を獲得できる効果があり、様々な病気に対応したワクチンがあります。これらには具体的にどういった種類のものがあるのかを分かりやすく解説します。
ワクチンとは?

ワクチンは摂取によって、対応した抗体(免疫)を獲得できる効果があり、この抗体が体内にあれば、その対象の病原体(ウイルスや細菌)に感染したとしても、それを即座に攻撃・排除してくれ、病気の発病や悪化を防いでくれます。
ワクチンはウイルスや細菌などの病原体を元に作られますが、その種類によって「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」の3つに分けることが出来ます。
生ワクチン

生ワクチンとは、病原体の中から持っている病原性(毒性)が弱いものを選別して、それを何十回も培養を繰り返し、限界まで病原性を弱めた物のことをいいます。
これを接種した場合、その病気に自然感染した状態とほぼ同じ流れで、それが体内で増殖、対応した抗体が体内にできることによって、その感染症に対する免疫を獲得することができます。
この生ワクチンの利点は、その免疫効果の持続期間が比較的長いこと、十分な免疫が出来るまでの予防接種の回数が1、2回ですむ事、などが挙げられます。
欠点はワクチン接種の数週間後にその感染症(病気)本来の症状が軽く現れることがあることです。病原性を弱めているとはいえ、生ワクチンの病原体は生きています。そのため、摂取時、接種後の体調などによってはその毒性によって本来の病状・症状が現れる可能性をゼロにすることはできません。
「生ワクチン」の製造方法で作られているワクチン例:結核(BCG)、風疹、はしか、水痘(みずぼうそう)、おたふくかぜ、ロタウイルス、黄熱
生ワクチンは他のワクチンと比較してその効果の高さが期待できる反面、重い副反応(副作用)が出るリスクもやや高めなワクチンといえます。
不活化ワクチン
不活化ワクチンとは、細菌やウイルスなどの病原体をホルマリンや紫外線などで病原性(毒性)を無くしたもの(不活化)をいいます。
生ワクチンとは違い、病原体が生きてはいない状態なので、その感染症(病気)本来の症状が現れる心配が無い点が大きな利点です。
その代わり、自然感染や生ワクチンに比べて、獲得できる抗体(免疫)量が少ないため、十分な免疫が出来るまでワクチンによって決められた摂取回数が必要となる点が欠点として挙げられます。
「不活化ワクチン」の製造方法で作られているワクチン例:インフルエンザ、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、ポリオ、肺炎球菌、百日せき、HPV(ヒトパピローマ)、帯状疱疹、髄膜炎菌、狂犬病
不活化ワクチンは重い副反応(副作用)が出ることが少ないため、生ワクチンと比べると摂取のリスクは低いが、免疫獲得の効果もやや低いワクチンといえます。
トキソイド
トキソイドとは細菌が出す毒素の「毒性」のみを無くす処置を行ったものです。細菌が出す「毒素」は体内で免疫を作る際に必要となるため無くしませんが、毒性が無いため、その「毒素」には害はありません。
このトキソイドは分類として、不活化ワクチンとしてまとめられることもあります。
利点や欠点も不活化ワクチンとほぼ同様で、摂取時に重い副反応(副作用)が出ることが少ない反面、免疫獲得の効果がやや低いため、数回の摂取が必要となるワクチンです。
「トキソイド」の製造方法で作られているワクチン例:ジフテリア、破傷風
生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドの比較

「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」の3種類を比較すると上記のようになります。
ワクチンの製造方法
ワクチンはその需要に合わせて大量に製造する必要があります。その製造方法としては主に「鶏卵培養法」「細胞培養法」「遺伝子組み換え法」の3方式が用いられています。元となる病原体や製造量、完成までのスピードなどにあわせた製造方法を用います。
鶏卵培養法

鶏卵培養法とはインフルエンザや黄熱のワクチン精製にて用いられる製造方法です。具体的な方法をインフルエンザワクチンを例に挙げると以下のようになります。
まず鶏の受精卵を産卵後、10日程度温めて育成した発育鶏卵(発育中の鶏の卵)を用意します。その発育鶏卵に元となるインフルエンザウイルスを注入します。そして、その卵をさらに3日程度温めて続け、内部でウイルスを培養(増やし)します。
その後、増殖したウイルスを抽出し、分解処理、これをホルマリンなどで不活化した後、精製すればインフルエンザワクチンの完成となります。
この製造方法の利点はワクチン製造に必要なものが簡単で安定的に手に入る卵である点です。欠点は製造に時間がかかる点、大人1人分のワクチン精製に対して卵1、2個が必要なために大量の製造には大量の卵が必要な点、などが挙げられます。
これらの点から、急がずゆっくりと量産する方法としては問題はありませんが、早急にワクチンを大量生産したい場合にはあまり向かない製造方法といえます。
細胞培養法

細胞培養法とは特殊な培養液内で増殖させた動物の細胞に病原体を注入して、その細胞内で病原体を培養、その後増殖した病原体を取り出し、不活化した後、精製するワクチン製造方法です。
この製造方法はワクチン精製が鶏卵培養法に比べて簡単なこと、比較的短期間に大量のワクチン製造が可能なこと、などが利点として挙げられます。
こういった利点があるため、多くの種類のワクチン精製において、この方式が用いられており、鶏卵培養法が主流のインフルエンザに関しても、この方法でのワクチン精製の研究・実用化が進んでいます。
ただ、この細胞培養法は元となる病原体によっては鶏卵培養法に比べて技術的な課題がまだあることが欠点です。
遺伝子組み換え法

遺伝子組み換え法は比較的新しく開発された製造方法で、B型肝炎のワクチン精製に用いられている製造方法です。具体的な方法をB型肝炎ワクチンを例に挙げると以下のようになります。
まずB型肝炎ウィルスの抗原遺伝子のみを取り出し、それを酵母(酵母菌)に注入します。すると、その酵母がウイルス抗原を含むタンパク質を作るようになります。このタンパク質はウイルス抗原を持つものの、ウイルス本来の毒性、危険性はありません。このウイルスタンパク質を抽出し、精製すればB型肝炎ワクチンの完成となります。
この製造方法は短期間でワクチン製造が可能なこと、製造時にウイルスそのものを用いないため危険性が低いこと、などが利点として挙げられます。
欠点は技術的難度が高いことやまだ研究途上のため、この製法での精製に対応したワクチンの種類があまり多くはないことです。
ワクチンに関するまとめ

製造法による違いをまとめると以下の図6のようになります。

ワクチンの製造にはその方法によって大きな違いがあり、それぞれにおいて利点、欠点があることが分かります。
ワクチンは一度摂取すればすべてが完璧に完了というほどの効力はありませんが、感染症に関して一定の効力は確実にあります。副反応など問題もあり、対応する感染症に合わせてワクチンの接種が必要な点などすべての人にとって良いものかどうかは分かりませんが、その人にとってリスクのある感染症だと思えるものに関してはある程度、積極的に摂取を検討する価値はあるものです。
特に出生後から小児を対象として行われる定期接種でのワクチン摂取は重要です。これらの予防接種では危険性の高い感染症(A類疾病)の予防が可能です。
A類疾病:法律に基づくワクチンの定期接種の対象となる感染症のこと
「ジフテリア、百日せき、ポリオ、破傷風、麻しん(はしか)、風しん、日本脳炎 、結核、Hib感染症、小児の肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)、水痘(みずぼうそう)、B型肝炎(2016年10月1日から)」
これらA類疾病のワクチンの接種を過去に自身が行ったかを知らない場合、自分の母子健康手帳の記録などで確認し、万が一、摂取していない場合は今からでも摂取が可能かどうかの確認や検討が重要になると思います。
定期接種とは関係のない感染症に関するワクチンに関しても、無意識でいるのではなく、必要性があるかどうかの確認を数年に一度、検討してみることが長い意味で健康に生活を送るための一つのポイントになると考えます。
—参考元—
厚生労働省,予防接種情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
国立感染症研究所,細胞培養季節性インフルエンザワクチンに関する検討課題について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000056758.pdf