細菌やウイルスなどの病原体から体を守る働きである免疫機能の1つに「抗体」があります。この抗体とは具体的にどういった働きをするのか?
その特徴や機能、種類よる違いなどを分かりやすく解説します。
抗体とは?

抗体とはウイルスや細菌などの病原体(異物)に取りつき、それを攻撃・無力化したり、免疫細胞の攻撃のための目印として機能するタンパク質で、Y字の形をしています。Y字の2股側の先端が抗原(異物)と結合する機能を持っています。
「抗原」
抗原とは免疫機能が異物を認識する際の目印になるタンパク質で、自然界に存在するウイルスや細菌、花粉などや人工的に作り出した化学物質などを含めた異物の表面にはこの抗原があります。
抗体先端部の形は標的となる抗原の形にあわせてつくられます。
抗原の形は異物の種類や型などの小さな違いで差が生じます。そのため、例えば同じ種類のウイルスでも、型が少しでも違うと抗原にも違いが生じ、同じ種類のウイルスでも型が違うウイルスに対しては抗体が効果がない(結合が出来ない)ということが起こります。
また、Y字部分は開閉してその角度を変更可能なため、大きな細菌から小さなウイルスまで様々なサイズの異物に対応できます。

この抗体はB細胞(免疫細胞)によって作られます。B細胞は学習した異物の抗原の形にあわせて抗体の先端部分(抗原結合部位)を変化させて産生し、その異物に対して放出します。
抗体はつくられてから数か月は血液中に存在し続け、対象の異物から体を守り続けます。この間は同じ異物に対しては、その抗体が即座に効果を発揮し、体が守られます。
しかし、抗体は時間の経過とともに自然に失われる性質があります。そのため、ある程度の期間が経ってから同じ異物が体内に侵入した場合は、再びB細胞がその異物に対応した抗体をつくる必要性が出てきます。
抗体は大きく分けると「IgA」「IgD」「IgE」「IgG」「IgM」の5つに分けられます。
IgA抗体

IgA抗体は主に目や鼻、口、肺、腸管などの粘膜や分泌物に多く含まれ、それらの部分から異物(病原体など)が体内に侵入するのを防ぐ働きをしています。
また、女性の産後初期の母乳(初乳)に多く含まれているため、赤ちゃんはその母乳を飲むことによって口や腸にIgA抗体を取り込み、それが病原体から赤ちゃんの体を守る役割も果たします。
IgD抗体

IgD抗体はB細胞の表面に存在し、B細胞の働きを助けていると考えられていますが、その詳しい働き・役割はよく分かっていない、研究中の抗体です。
IgE抗体

IgE抗体はアレルギー反応の原因となることがある抗体です。IgEがアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)と遭遇すると、アレルギー症状の原因となるヒスタミンなどの化学物質を放出します。
これにより様々なアレルギー症状が引き起こされます。
「アレルゲン」
アレルゲンとはアレルギー反応の原因となる物質のことです。
アレルゲンになり得る物は主に食物(卵、乳、小麦、そば、エビ、かに、ピーナッツ)、ダニ、カビ、花粉、化学物質などがあります。
このように体にとって悪い効果が特質しているIgE抗体ですが、このIgE抗体は寄生虫が体に感染するのを防ぐ働きもあります。そのため、体にとって害しかないというものではありません。
IgG抗体

IgG抗体は5種の抗体の中で最も血液中に多く存在する抗体です。
この抗体はB細胞が異物を認識してから産生されるまでに時間がかかる欠点はありますが、持続力が高いため、いったん血液の中に放出されるとそこから長い期間、血液中に留まり体を守ります。
また、IgGは妊娠時の母親から胎児(子供)に血液を通じて受けつがれる唯一の抗体でもあります。そのため、赤ちゃんは生まれたときから、母親が持っていたIgG抗体を所持しており、これが自分で抗体をつくり出れるようになるまで赤ん坊を守る役割を果たします。
ただし、この受け継いだIgG抗体は時間の経過(数か月程度)とともに自然に失われていくため、あくまで、赤ちゃん自身の免疫機能が働き出すまでの繋ぎの役割を果たすものです。
IgM抗体

IgM抗体は体内に侵入した異物とB細胞が遭遇した時に最初に産生する抗体です。この抗体が異物に結合していると、他の免疫機能がその異物を捕食しやすくなる効果があります。
このIgM抗体はより効果的に対象に結合できるように、抗体の基本形が5つ円形に結合した構造をしています。
素早く作られる特性がある一方、あまり持続力がないため、短期間で消失してしまう欠点もあります。
抗体に関するまとめ

抗体はその種類によって様々な働きがあり、それぞれが役割を果たすことで異物(病原体)が体内に侵入したり、体内で繁殖したり、体への悪影響が出るのを防ごうとします。

例えば、ある病原体が人の体内に侵入しようとした際、その病原体に対応した抗体を持っていれば、まず粘膜内にいるIgA抗体が体内への侵入そのものを妨げるように働きます。
それを乗り越えて体内に侵入できたとしても次にIgM抗体が素早く攻撃対応を開始、さらにその後IgG抗体が攻撃に加わるという形で病原体を駆除するために様々な抗体が順を追って働きます。
もちろん抗体だけでなく、それ以外の免疫機能もあわせて働き、人の体は日々、知らず知らずのうちに病原体を撃退しています。
重要なのは、人の体には抗体や自然免疫、獲得免疫など様々な免疫機能があり、それらが連携しつつ毎日の健康を維持しています。
そのため、普段から健康的な生活を送り、体調を万全にして、それら免疫機能が万全に機能するようにしていけば、日々を健康に過ごしていけると考えます。
—参考元—
厚生労働省,予防接種基礎講座(平成29年3月開催) 資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000167059.html
厚生労働省,花粉症特集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kafun/index.html